綾波レイの「ありがとう」の感謝の言葉は、レイ自身にとっても思いもよらないものだった


エヴァンゲリヲン新劇場版:破より


エヴァンゲリヲン【破】では 心の動きが 一段とわかりやすくなっている。
今回は 綾波レイ

学校の教室 これからお弁当の時間

 

 

シンジの気づかいに、思いもよらない変化を見せるレイ

 

シンジ 
「ハイ これ」  
シンジがレイにお弁当を差し出す。

レイ  
「・・・・・」
レイは一瞬わけがわからないって顔するけど

シンジ 
「いつも食べてなさそうだったから」
 席に座っているレイに お弁当を渡す。

レイ  
「あっ・・・ありがとう」
お弁当を差し出されて、思わず ありがとう、って言うレイ。
テレビ版知ってる人は あー、そうなる? って感じのシーンだと思う。

レイは、自分のうちへ帰ってからベッドの上でつぶやく。

「ありがとう・・・ 感謝の言葉・・・ はじめての言葉・・・ あの人にも言ったことなかったのに」
あの人、というのはもちろん、碇ゲンドウのことだ。このあとレイは、食事会を計画する。

 

レイとゲンドウのシーン
ゲンドウの一言から始まる。

ゲンドウ 
「レイ 食事にしよう」
2人は食卓につくけど、レイのテーブルには食べ物ではなく、薬とサプリメントのようなものしかない。 

レイ   
「碇指令」

ゲンドウ 
「なんだ?」

レイ   
「食事って 楽しいですか?」

ゲンドウ 
「ああ」

レイ   
「誰かと一緒に食べるって うれしいですか?」

ゲンドウ 
「ああ」

レイ   
「料理って 作ると喜ぶですか?」

ゲンドウ 
「ああ」

レイ   
「碇指令、今度 碇君やみんなと、食事 どうですか?」

ゲンドウ 
「いや その時間・・・・・」
この時ゲンドウには、実験中に亡くなってしまった妻のユイがレイに重ねて見える。

そして ユイに言われる。 
「あなた シンジを・・・」
このあと、レイを見つめて

ゲンドウ 
「わかった いこう」
と思わず返事をする。

 

レイの会話は、かなりぎこちない。
ゲンドウの返事も「ああ」しか言わない。 

 

なんかそっけない感じだ。レイは今まで、楽しい食事をしたことない、そんな体験したことないんだ。


水族館のシーンでも肉を食べないレイに対して、シンジが
「体が温まるよ」と言って、お味噌汁を渡す。

 

その時レイは、お味噌汁を一口飲んで
「おいしい」と言ってる。

 

シンジからお弁当をもらって、思わずでてしまった
「ありがとう」という言葉にも、自分でも驚いている。

 

ゲンドウの元で育ったレイにとっては、はじめての経験で、今まで一番近かったゲンドウにも言ったことがなかった
「ありがとう」という言葉は、レイ自身でもなぜだかわからなかったんだろう。

 

ゲンドウのことは信頼していても、思わずありがとうって言うくらいうれしい体験は、ゲンドウとの間ではなかったことになる。シンジにもらったお弁当は、本当にうれしかったんだ。

 

だから 自分の部屋に帰ってから、ベッドの上でつぶやいちゃう。


「ありがとう・・・感謝の言葉・・・はじめての言葉・・・あの人にも言ったことなかったのに」


人って経験しないとわからない。特に感情はね。

 

もちろんレイも、自分で自分のの感情認識ができてるわけではないと思う。

 

頭でわかっていなくても、ココロは動く時がある。だから、今までのレイだったら考えられないようなアクションおこす

無意識の心理 新装版: 人生の午後三時

 

レイに対する、ミサトとリツコの認識はこんなにも違う

 

このあとレイは、お料理の練習まで始めてしまう。家で1人、包丁の練習する。さらに、学校でも変化がおきる。


朝の学校で、教室のドアを開けながら

レイ   
「あはよう」

シンジ  
「アッ・・・アヤナミ・・・」
この変化にみんなは唖然する。トウジとケンスケも、あんぐりって感じだ。

ケンスケ 
「アイサツ・・・?」

トウジ  
「あの アヤナミが・・・」
そりゃそうなるだろう。そしてシンジが気付くんだ。

シンジ  
「アヤナミ もいいいの?」

レイ   
「ええ 今日は平気」

シンジ  
「どうしたの? その手」

レイ   
「さっき 赤木博士がまいてくれたの」

シンジ  
「何 してたの?」

レイ   
「ヒミツ、もう少しうまくなったら話す」
シンジはにっこりするけど、それを見ていたアスカは、チッと言ってる。3人の心理がおもしろい。

このレイの変化に、ミサトとリツコも話をする。

ミサト  
「変わったわね レイ」

リツコ  
「そうね、あの子が人のために何かをするなんて、考えられない行為ね、何が原因かしら」

ミサト  
「愛、じゃないのぉ」

リツコ  
「まさかっ、ありえないわ」

ミサトからみれば 愛、に見える。


でもリツコからみれば、それはありえないことになる。愛ではない。

 

レイの行動に対して、全く違う感じ方をしている。

 

性格が違うからといえばそれまでだが、人はあくまでも自分の感覚を通して物事を見ている。

 

どちらが正しいとか間違っているとかではなく、ただ受け止め方が違うということでしかない。

 

目でみえる現実では、レイのやってることは、シンジにお弁当をもらって食事会の計画をして、お料理の練習をしている。

 

ただそれだけだ。人の感じ方はおもしろい。ミトとリツコでこんなにも違う。

 

ボクたちはみんな、自分のメガネを通して物事を見ている。それは、いいも悪いもなく、ただそう感じているってことだ。

 

基礎から学ぶ認知心理学――人間の認識の不思議 有斐閣ストゥディア

 

ココロが感じたことは、無意識のうちに行動につながることがある

 

レイの行動は、レイ自身が無意識のうちに、トウジとケンスケが驚くほどに変化している。それは自分で認識していようが、してなかろうが関係ない。

 

レイも自分では、よくわかっていないのだろう。

 

だからゲンドウを食事会に誘う時、ぎこちない。

 

「食事って楽しいですか、誰かと一緒に食べるって、うれしいですか、料理って作ると喜ぶですか」

 

わからないから、こんな感じの会話になってしまう。

 

頭でわかっていなくても、ココロは自動反応する。

 

「ありがとう」の言葉。

 

レイはうれしかったんだ。頭でお礼を言わなくちゃなんて考えてない、嬉しかったから自然と口から出てきた言葉が
「ありがとう」なんだ。

 

行動分析学入門 ――ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)