サードインパクトを目の前にして、個々の内的世界はまるで別のものを見ている

 

エヴァンゲリヲン新劇場版:破より

 

第10の使徒のコアの中でシンジが綾波の手を取り引き上げたころ、それぞれの思いが語られる。

 

 

第10の使徒のコアの中で、シンジだけが満足感を得る

 

加持  
「数が揃わぬうちに 初号機をトリガーにするとは。碇指令・・・ゼーレもだまっちゃいませんよ」

そして ゲンドウと冬月は

冬月  
「やはり、あの2人で初号機の覚醒はなったな」

ゲンドウ 
「ああ、われわれの計画にたどり着くまであと少しだ」

エヴァの中では シンジとレイが

シンジ  
「アヤナミ、父さんのことありがとう」

レイ   
「ごめんなさい・・・何も出来なかった」

シンジ  
「いいんだ、もう・・・これでいいんだ」

シンジは、アヤナミを助けられただけで満足だ。
現時点で正確には、助かったかどうかはまだ解らないんだけど。


エヴァの様子を、地上から見ていたマリは

マリ   
「なるほど、都合のいいヤツね」と つぶやいてる。そして
「やっぱ、ニオイが違うからかなぁ・・・」

リツコと ミサトはといえば

リツコ  
「この世界の理を超えた新たな生命の誕生。代償としていにしえの命は滅びる」

ミサト  
「ツバサ・・15年前とおんなじ・・・」

リツコ  
「そう・・・セカンドインパクトの続き、サードインパクトが始まる。世界は終わるのよ」

 

「数が揃わぬうちに初号機をトリガーにするとは、碇指令・・・ゼーレも だまっちゃいませんよ」加持のこの言葉から、この先もネルフとゼーレにも関わるんだろう。


加持のこの行動は、真実を知りたいという欲求からきているとしたら、危険を冒してでも知りたい真実とは何か?


それがわかればエヴァのストーリーも読み解けるだろうが、この時点ではいろいろな解釈の仕方があり、ひとつの正解にたどり着くことはできない。

 

「やはり、あの2人で初号機の覚醒はなったな」

「ああ、われわれの計画にたどり着くまであと少しだ」

この冬月とゲンドウの会話は、ゲンドウの計画がここまでは計画通りというこだろう。

ゲンドウの見据えるものは、あくまでも人類補完計画で他のことは眼中にない。


そして冬月先生もなにげだ。ゲンドウの目指す人類補完計画を理解しているし、それは学者としての探求心からきているものなのか。

 

ただそれを自分の目で確かめたいだけなのか、それとも、未知のものへのあくなき興味なのか・・・この先明かされて行くのかそれも興味深い。

 

そしてエヴァの中の シンジとレイは

「アヤナミ、父さんのことありがとう」
「ごめんなさい・・・何も出来なかった」
「いいんだ、もう・・・これでいいんだ」

レイが食事会の計画をしてくれたことに「ありがとう」と言いたかったんだ。

 

はじめは無表情だったあの綾波レイが、シンジのことを思って計画した食事会だ。

 

でもレイはシンジに謝る。結局食事会は出来なかったから、シンジに対して悪いと思っていたんだろう。

 

シンジにしてみたら。そんなことはもうどうでもよかった。ただ、レイの気持ちが嬉しかった。

 

だから「いいんだ、もう・・・これでいいんだ」と。


レイの手をつかんだ時にシンジは安心し、絶対に綾波を助けるって覚悟だったから、レイの手をつかんだ時、全てはどうでもよくなったんだろう。

 

そこにはレイの手をつかんだ達成感で、シンジは自分自身に満足出来たんだ。

 

一方 地上にいるマリは「なるほど、都合のいいヤツね」とつぶやいてる。

 

マリはサバサバしている感じだ。「都合のいいヤツ」とは言っているけど、そこに悪意は感じられない。

 

彼女のことだから自分の目的が達成されれば、それでいいのかもしれないが謎は多い。

 

そして リツコは

「この世界の理を超えた新たな生命の誕生。代償としていにしえの命は滅びる」と。

 

第10使徒との融合を、

この世界の理を超えた新たな生命の誕生と言っている。

 

サードインパクトが発生する。サードインパクトが起きると、いにしえの命は滅びると言っている。

 

ミサトは

「ツバサ・・15年前とおんなじ・・・」と。

 

15年前のインパクトの時にに南極で見ているから、フラシュバックのようで呆然とするしかないだろう。

 

そして

「そう・・・セカンドインパクトの続き、サードインパクトが始まる。世界は終わるのよ」と。

 

リツコは

「世界は終わる」と言ってる。

 

今の世界が終わるってことだけど、それにしてもリツコは淡々としている。まるで生に対して終着がないようなセリフだ。

 

それはゲンドウの下で人類補完計画を熟知しているからなのか、ゲンドウの思う通りの結果になってほしいと思っているのかは、この時点では何とも言えない。

 

「自己受容」―世の中が悪いのか?自分が悪いのか?

 

同じ現実の中で、見ている内的世界は全く違う

 

登場人物たちが見ているサードインパクトという現実は、当事者のシンジとレイ以外はみな同じだ。しかし、個々の内的世界は全く別のものを見ている。

 

加持は、ネルフとゼーレの関係を見て、この先もふたつの組織にかかわっていくだろう未来を見据えている。

 

ゲンドウは、ネルフの人類補完計画が計画的に進んでいることや、計画の最終地点を見据えている。

 

冬月は、ゲンドウとどこまで同じスタンスなのかいまひとつ不明だが、この現実を確認するようにみている。

 

マリはマリで、まるで他人事のようなつぶやきだ。

 

ミサトは、まるで15年前に時が戻されたような現実を見ているだろう。リツコは、世界が終わることに対して、まるで感情が動く気配もない。

 

当事者のシンジは、満足感に満たされて全てはもういいと感じているし、シンジのミュージックプレーヤーをしっかり握っていたレイも満足だろう。

 

見ている内的世界が違うといっても、個人個人違うわけから当たり前といえば当たり前だが、加持にしてもゲンドウや冬月にしても、マリやミサト、リツコにしても、目の前のサードインパクトを見ていても、自分以外の誰かを見ていることはない。


サードインパクトを目に前にして、ただ自分自身の内的世界を見ていることになる。 同じ現実の中で、全く違う世界を生きているともいえるだろう。 

 

内的世界への探求―心理学と宗教 (ユング心理学選書)