何もできないミサトは シンジの気持ちを思いやることしか出来ない

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第四話「雨、逃げ出した後」より

 

 

募る心配、大人の会話

 

ミサトが歯を磨きながら 
「アイツ今日もずる休みするつもりかしら」とつぶやく。

ミサト 
「シンジ君 起きなさい、いつまで学校を休む気?もう5日めよ。初号機はもう完全に直っているのよ。パイロットのあなたがそんなことでどうするの、シンジ君?」

呼びかけに答える声はなく ミサトはシンジの部屋のふすまをそーっと開ける。そこには 葛城ミサト様、というシンジの手紙とともに身分証明書が置いてある。
「家出か・・無理もないわね」とつぶやくミサト

 

トウジとケンスケは 心配してシンジの家を尋ねるが シンジはいない。
ミサトは
「シンジ君はネルフの訓練施設にいるの」と言って誤魔化す。

玄関の前で

ケンスケ
「これは予想外の展開だ」

トウジ 
「えらいべっぴんさんやったなぁ」
と話しているときに

ミサトは
「ジンジのバカッ!」といってドアを蹴飛ばす。
本当は心配で心配でたまらない。

 

そのころシンジは電車に乗ってる。いつも持っているミュージックプレイヤーを聞きながらね。時間は過ぎ まわりの乗客はどんどん変わっていくのに同じ場所に座ったままのシンジ。

 

とうげんだいの終点で ふと顔を上げて帰らなきゃ、とつぶやくけど 街をさまよい映画館で時間をつぶす。朝になりまたふらふらと歩き出すが幻聴が聞こえ耳をふさいで走り去る。

 

ミサトは朝になっても帰っていないシンジの部屋を見て「バカ」とつぶやく。
一方シンジはバスに乗り あてどもなく彷徨う。

 

一方ネルフでは ミサトとリツコが
ミサト 
「人類の存亡を背負わせるのはやっぱ酷よね」

リツコ 
「でも私たちはエヴァの操縦を14歳の子どもたちに委ねざるを得ないのよ」

ミサト 
「分かってる」

リツコ 
「で、シンジ君から連絡は?・・・ないの?」

ミサト 
「ないわ、彼もう戻らないかもしれない」

リツコ 
「どうするつもり?」

ミサト 
「別に、戻らないならその方がいいかも」

リツコ 
「なぜ?」

ミサト 
「この間の戦闘の後でさぁ・・」

 

ここから回想シーン
ミサト 
「どうして私の命令を無視したの?」

シンジ 
「ごめんなさい」

ミサト 
「あなたの作戦責任者は私でしょ」

シンジ 
「はい」

ミサト 
「あなたには私の命令に従う義務があるの、分かるわね」

シンジ 
「はい」

ミサト 
「今後こういうことのないように、あんた本当に分かってんでしょうね!」

シンジ 
「はい」

ミサト 
「あんたねぇ、なんでも適当にハイハイ言ってりゃいいってもんじゃないわよ!」

シンジ 
「分かってますよ、ちゃんと。もういいじゃないですか、勝ったんだから」

ミサト 
「そうやって表面だけ人に合わせてりゃ楽でしょうけどね!そんな気持ちでエヴァに乗ってたら死ぬわよ!」

シンジ 
「いいですよ、そんなの」

ミサト 
「いい覚悟だわ、と言いたいところだけど褒められると思ったら大間違いよ、碇シンジ君」

シンジ 
「褒められるも何も どうせ僕しか乗れないんでしょ、乗りますよ」
ここまで回想シーン

 

リツコ 
「なるほどね」

リツコ 
「あの子にとってエヴァに乗ることが苦痛でしかないのなら もう乗らない方がいいわ。絶対死ぬもの」

リツコ 
「でも パイロットは必要よ」

 

ミサトはシンジの監督責任者だし、トウジとケンスケが心配して尋ねてきても 本当のことは言えない。
「シンジ君はネルフの訓練施設にいるの」と言って誤魔化すしかないだろう。

 

トウジとケンスケが帰った後「ジンジのバカッ!」といってドアを蹴飛ばすけど、その行為には 自分自身が何も出来ない事への怒りも含まれているんだろう。

 

ミサトは シンジに自分を重ねて 心のどこかに何とかしてあげたい、という気持ちがあるけど、自分の立場もあるし シンジの心情も考えれば心配は募る一方だけど 何も出来ない。

 

いくら何とかしてあげたいと思っても 人の心を何とかするなんて 出来るはずもない。自分の気持ちだって怪しいものなのに 他人の気持ちをどうにかするなんてこと出来ない。気持ちというのは 勝手に感じてしまうものなんだから。

 

人を何とか出来ると本当に思っているなら それ、コントロールだ。
自分が思うとおりに人を変えたいだけってことだと思う。

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現実レベルでは 無意識のうちにコントロールドラマが起きている

 

宗教とかでは マインドコントロールされたって話は聞いたことがあると思うけど、宗教に限らない。


マインドコントロールとまで言っちゃうと大げさかもしれないが こうした方がいとか ああした方がいい、って人に言うのは アドバイスとも受けとれるけど ヘタをしたら価値観の押し付けや 暗に自分の思うとおりにしたいだけってこともある。

 

アドバイスが欲しいという人もいるだろうけど それは不安の表れのひとつだということが多い。自分に自信がないと 人の意見を聞きたくなるし アドバイスをもらって納得したい。ミサトはシンジに ああした方がいいとか こうした方がいいとかは言わない。

 

ちょいと思うところを例えてみる。必ずしもコントロールとは言えないけど 価値観はこんな風に決まっていくって感じかな。

 

例えば 親が子どもに言う言葉。


子どもが男の子で小さいときから 男の子は強いんだから泣いてはいけません、と大きくなるまで言われ続ければ 男は強いもので泣いたりしてはいけない、という価値観がすり込まれるってこと。


すり込まれてしまえば 人前で泣くとことなんてもちろんないだろうし、泣く行為自体 男としてダメだと思うようになるかもしれない。

 

女の子の場合も同じだ。
小さいときから 女の子の幸せは結婚することよ、と大きくなるまで言われ続ければ、幸せ=結婚、という価値観がすり込まれる。


彼氏が出来て結婚出来ればいいだろうけど 自分に合う人にめぐり合えず なかなか結婚できなければ 自分はどうせ幸せになんてなれない、と思うかもしれない。 

 

これらは親の価値観で 子どもが元々持っているものではない。小さい子どもは感情豊かだ。泣いてはいけないなんて思わないし、幸せ=結婚なんて思っていない。育っていく環境で親の価値観を受け継いでいくことが多い。

 

親から受け継ぐ価値観は 元々親の価値観で、子ども自身が 自分の気持ちにそって 自分自身で価値観を持つわけではない。

 

自分の気持ちに添うって言うのは 自分が楽しいとか心地よいとか、楽しくないとか心地悪いとか、自分自身が感じる気持ちを元に 自分で決めているわけではないってこと。

 

自分の気持ちをちゃんと感じて認識する前に 泣いてはいけない、というすり込みが入ってしまう。いつも親から同じ事を言われ続ければ そのすり込みは いかにも自分自身の気持ちだと思ってしまう。

 

でもここに心はない。気持ちが抜けけ落ちている。泣きたいのに泣いてはいけないというのは 悲しかったり辛かったり 苦しかったりしたときに それを泣くことで表現してはいけない ということを学んでしまう。

 

気持ちや感じたことを表現するのと ただ自分で感じるのは別のことなんだけど 子どもには分からない。単純に感じてはいけないと思うようになる。

 

いくら感じてはいけないと思っても 感情というのはは勝手に感じてしまうから 心は辛くなる。辛くて耐えられなくなった心はどこかで爆発するか 封印するしかなくなる。爆発した場合は 親に逆らう形で出ると思うけど 封印した場合は親の思うとおりのいい子になる。

 

幸せ=結婚も いい子のままで大きくなれば 適齢期に 出会った人と結婚するだろう。幸せは他にもあると思えれば 自立する道もあるだろう。

 

まあ どちらがいいとかの話じゃないから どっちでも自由なんだけど 人の心は こんな風に自分以外の要因で すごく影響を受けているってことになる。

 

価値観は 国や文化や時代によっても大きく変わる。
同じ国や文化でも 親の価値観によって大きく違ったものになる。

 

ミサトはシンジの心情を思いやっている。ミサト自身も 父親との確執を持ってたし 自分に重ね合わせていろいろと感じることがあるんだろう。

 

リツコとの会話で ミサトは「戻らないならその方がいいかも」「あの子にとってエヴァに乗ることが苦痛でしかないのなら もう乗らない方がいいわ」と言ってる。


でもリツコには「どうするつもり? でもパイロットは必要よ」と言われてしまう。大人の会話だねぇ。

 

それが仕事だからと言っちゃえば それまでなんだけど シンジの気持ちを考えれば、そんな簡単には片付けられない。シンジは 仕事でエヴァに乗ってるわけじゃないから。

 

リツコにしてみれば 自分はシンジの監督責任者じゃないから 仕事という立ち位置での会話になるんだろう。


仕事となると シンジの気持ちは分かっても パイロットの確保が重要ってことになってしまうのは 仕方ないのかもしれない。

「こうあるべき」をやめなさい