ミサトにとって父親の呪縛とは

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第拾弐話「奇跡の価値は」より

 

 

ミサトの使徒殲滅は復讐?

 

一尉から三佐に昇進したミサトに対して

シンジ
「あ、あの、昇進おめでとうございます」
ミサト
「ありがとう。でも、正直あまり嬉しくないのよね」

シンジ

「それ分かります。僕もさっきみたいに誉められてもあまり嬉しくないし、逆にアスカを怒らせるだけだし…どうして怒ったんだろう…何が悪かったんだろう…?」

ミサト
「さっきの気になる?」

シンジ
「はい…」

ミサト
「そうして、人の顔色ばかり気にしているからよ」

 

ミサトにとって昇進は あまりうれしい事ではなかった。
そんなミサトの昇進祝いを ケンスケが企画しその席で

ミサト
「まだだめなの?こういうの?」

シンジ
「いえ、ただ苦手なんです。人が多いのって。なんでわざわざ、大騒ぎしなきゃならないんだろう」

シンジ
「…昇進ですか。それってミサトさんが人に認められたって事ですよね」

ミサト
「ま、そうなるわね」

シンジ
「だから、みんなこうして喜んでいるわけですよね。でも嬉しくないんですか?」

ミサト
「ぜんぜん嬉しくないって事はないのよ。少しはあるわ。でもそれが、ここにいる目的じゃないから」

シンジ
「じゃあなんでここに…NERVに入ったんですか」

ミサト
「さって、昔のことなんて忘れちゃった」

 

ご多分に漏れず 第10使徒 サハクィエルが攻めてくるが、手で受け止めるという何とも凄い作戦を立てる。
位置の特定も出来ず それさえも女の感だという。

リツコ
「あなたの勝手な判断で、EVAを3体とも棄てる気?」

リツコ
「勝算は0.00001%。万に一つもないのよ」

ミサト
「0ではないわ。EVAに賭けるだけよ」

リツコ
「葛城三佐!」

ミサト
「現責任者は私です!」

ミサト
「やることはやっときたいの。使徒殲滅は私の仕事です」

リツコ
「仕事?笑わせるわね」

リツコ
「自分のためでしょ?あなたの使徒への復讐は」 

リツコは ミサトの使徒殲滅を 使徒への復讐だと思っている。

 

作戦開始前
ミサト
「シンジ君、昨日聞いてたわね。私がどうしてNERVへ入ったのか」

ミサト
「私の父はね、自分の研究、夢の中に生きる人だったわ。そんな父を許せなかった。憎んでさえいたわ」

シンジ
(父さんと同じだ…)

ミサト
「母や私、家族のことなど、構ってくれなかった。周りの人たちは繊細な人だといってたわ」

ミサト
「でもほんとは心の弱い、現実から、私たち家族という現実から、逃げてばかりいた人だったのよ。子供みたいな人だったわ」

ミサト
「母が父と別れたときも、すぐ賛成した。母はいつも泣いてばかりいたもの」

ミサト
「父はショックだったみたいだけど、その時は自業自得だと笑ったわ」

ミサト
「けど、最後は私の身代わりになって、死んだの。セカンドインパクトのときにね」

ミサト
「私には分からなくなったわ。父を憎んでいたのか好きだったのか」

ミサト
「ただ一つはっきりしているのは、セカンドインパクトを起こした使徒を倒す。そのためにNERVへ入ったわ」

ミサト
「結局、私はただ父への復讐を果たしたいだけなのかもしれない。父の呪縛から逃れるために」

シンジ
(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ!)

シンジ
(そう、逃げちゃだめだ。)

 

シンジに NERVへ入った理由を語るミサトだが、そんなミサト自身さえ明確な理由は「セカンドインパクトを起こした使徒を倒す」
ゆうことだけ。

 

ただ 使徒を倒すことは「父への復讐を果たしたいだけなのかもしれない」と。「かもしれない」と言っているくらいだから ミサト自身の中でも明確になっていないことが伺える。

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子どものミサトは 本当はは父を求めていた

 

ミサトは 父親が当時隊長を勤めていた葛城調査隊とともに 南極まで同行したときに セカンドインパクトに遭遇している。その時のミサトは シンジと同じ14歳だった。南極でただひとりの生存者であり、最も近くでセカンドインパクトを目撃している。

 

しかも ミサトを助けてくれたのは 恨んでさえいた父親が身代わりとなってのことだった。14歳でのこの経験は 当然心に傷を負うだろう出来事だ。その後ミサトは 心を閉ざし失語症になっている。ちなみに 胸部の傷跡もこの時のものである。

 

「母や私、家族のことなど、構ってくれなかった」というのは 裏を返せば本当はかまってほしかったということになる。家族と向き合うことから逃げ 母親を泣かせ、父親らしいことは何もしてくれなかった。そんな父親を ミサトが恨んだとしてもおかしくないし、使徒に対して 憎悪や復讐心を持ったとしても自然なことかもしれない。

 

本当は母親を泣かせることもなく ミサト自身にも父親として向き合ってほしかった。それなのに父親は 逃げてばかりだった。14歳のミサトにしたら 母親を泣かせる父が許せないと思うのは自然なことだろうし、本当は父親を求めているから許せないんだという自分の心に気づくことは難しかっただろう。初めから求めることがなければ 期待もないので許せないと思うこともない。

 

許せないし恨んでいたのに そんな父親が 自分の身代わりになって自分が助かったら、許せなかったことや恨んでいたことは何だったのか、父親は自分を愛していてくれたのか?今まで愛された実感がないから 心は混乱する。

 

ただ大人になったミサトは 加持と付き合うことで、加持に父親を求めていることに気づいてしまう。子どもが父親にかまってほしかったというのは、ただ逃げずに受け入れてほしかった ということに他ならないが、父親に受け入れてもらえないと感じていたミサトは ただ自分を受け入れてくれる加持にそれを求めていた。そのことに気づいてしまったミサトは、加持に対して自分から別れを告げてしまう。 

 

親に 無条件で受け入れられた子供は安心を得るが、無条件で受け入れられなかった子供は安心を得られない。条件付きで安心を得た子供は、大人になってもその条件を満たそうとする。いい子でいることで安心を得た子供は、いい子でいないと誰からも認めてもらえないと思うようになる。

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