思いもよらないゲンドウの言葉にシンジに気づきは

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第拾弐話「奇跡の価値は」より


第10使徒 サハクィエル殲滅後

 

 

ゲンドウからの思いもよらない言葉

 

シゲル
「電波システム、回復。南極の碇司令から、通信が入っています」

ミサト
「お繋ぎして」

シゲル
「はい」

ミサト
「申し訳ありません。私の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。責任はすべて私にあります」

冬月
「構わん。使徒殲滅がEVAの使命だ。その程度の被害はむしろ幸運と言える」

ゲンドウ
「ああ、よくやってくれた、葛城三佐」

ミサト
「ありがとうございます」

ゲンドウ
「ところで初号機のパイロットはいるか?

シンジ
「あ、はい」

ゲンドウ
「話は聞いた。よくやったな、シンジ」

シンジ
「え?はい…」

ゲンドウ
「では葛城三佐、後の処理は任せる」

ミサト
「はい」

シンジはゲンドウに初めて褒められる。

 

そして 約束通りミサトにラーメンををおごってもらう

アスカ
「さぁ、約束は守ってもらうわよ」

ミサト
「はいはい、大枚おろしてきたから、フルコースだって耐えられるわよ。(…給料前だけどね)」

アスカ
「ミサトの財布の中身くらい、分かってるわ。無理しなくていいわよ。優等生も、ラーメンなら付き合うって言うしさ」

レイ
「私、ニンニクラーメンチャーシュー抜き」

アスカ
「私は鱶鰭チャーシュー、大盛りね!」

店主
「へい、鱶鰭チャーシュー、お待ち!」

シンジ
「ねぇ、ミサトさん…」

ミサト
「なぁに?」

シンジ
「さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする」

シンジ
「それに、分かったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、EVAに乗ってるのかもしれないって」

アスカ
「あんた、そんな事で乗ってるの?」

シンジ
「…」

アスカ
「ほんとにバカね」

 

次回 第拾参話 使徒侵入
シュミレーションプラグの実験中に起こった事件
次々と冒されていく地下施設
ついに自爆決議を迫られるネルフ
(第拾弐話の予告ナレーション)

 

シンジにとってゲンドウからの言葉はとても意外なものだったに違いない。まさか父親から褒められることがあるとは思っていなかったシンジは褒められても 戸惑いの方が大きく「あ、はい」としか返事ができない 。

 

その後ミサトに対して 「さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする」と言っている。父親から捨てられたと思っているシンジにとって ゲンドウから褒められるのは初めてのことだったに違いない。

 

戸惑うのも不思議はないが 褒められたのに すぐに「嬉しい」という感覚にはならない。どこかで 父さんに褒められるわけがないと思っているシンジがいる。だから素直に喜べない。

感情 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

 

自分自身のことは他者との触れ合いの中でしか気づけない

 

父親に捨てられたと思っているシンジにとって 他者と関わることは怖い。関わることで自分自身が傷付くことを恐れている。それでも父親に呼ばれてエヴァに乗っているのは どこかで求めているからに他ならない。

 

傷つくことが怖くてイヤならば 他者と関わらない選択も出来るが、そこまで徹底したいという思いもないから言われるがままに 流されるように生きていく。

 

心の中では 傷つきたくないから一人でもいいという思いと やはり一人は寂しいという思いが交錯している。どちらの思いもシンジの思いで どちらか一方には振り切れない。だから 人に言われたとおりに 流されるように生きることしか出来ない。

 

そんなシンジにゲンドウからの「話は聞いた。よくやったな、シンジ」という言葉は 心の琴戦にじわじわと浸透するように染み入った言葉だったのかもしれない。

 

他者からは 当然認めてもらいたいからエヴァに乗ってるんでしょと見られていても、シンジ自身はそんなに客観的には見られない。自分自身のこととなると 俯瞰で見るということは至難の業に近い。なぜならそこには感情があるからで、その感情が俯瞰で見ることを妨げる。

 

ゲンドウの言葉により シンジの中の感情がにわかに動く。その感情を感じることで初めて「さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする」と思えた。

 

そして「それに、分かったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、EVAに乗ってるのかもしれないって」 と。

 

心がどこにも行けないとき 自分一人でもがいてもどうにもならないときの方が多い。本を読んだり何かをみたり 他者と関わったり、自分以外の外部の刺激がないと 煮詰まったままの感情はどこにも行けず留まったままになる。

 

外部刺激で感情が刺激されたとき その感情が動き出して 初めて何かに気づくことが多い。感情の揺れは 何かに気づくことのきっかけになる。

感情心理学ハンドブック