シンジの戸惑いと少しの勇気、レイ唯一の恥じらい

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第拾伍話「 嘘と沈黙」より

EPISODE15:Those women longed for the touch of others' lips, and thus invited their kisses.

 

母親の命日に ゲンドウと二人で会うことになったシンジ。
父親に どう接していいかわからないシンジは、レイに父のことを聞きたくて 昼間から様子をうかがっていた。

 

 

レイ 初めての恥じらい

 

シンジ
「明日、父さんに会わなきゃならないんだ」

シンジ
「何話せばいいと思う?」

レイ
「どうして私にそんな事聞くの?」

シンジ
「いつか、綾波が父さんと楽しそうに話ているのを見たから…」

シンジ
「ねぇ、父さんって、どんな人?」

レイ
「分からない」

シンジ
「…そう」

レイ
「それが聞きたくて昼間から私のほうを見てたの?」

シンジ
「うん…あ、掃除のときさ、今日の…雑巾絞ってただろ?あれって、何か、お母さん、って感じがした」

レイ
「お母さん?」

シンジ
「うん。何か、お母さんの絞り方、って感じがする。案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして。あは、は…」

レイ
「何を言うのよ…」

この時のレイは 頬を赤く染めている。

 

父親とどう対峙していいかわからないシンジは レイにゲンドウのことを聞きたくてずっと様子を伺っていた。レイが雑巾を絞っている姿を見て そこに母親ユイの面影を感じる。

 

やっとレイに話しかけるタイミングをみつけ ゲンドウのことを聞くが レイには「分からない」と言われてしまう。

 

シンジにとって レイの雑巾を絞る姿は印象に残ったであろうことは間違いない。思わずレイにそのことを話すが「何を言うのよ…」と言いながら レイは頬を赤く染める。

 

この時のはにかむレイは 思春期真っ盛り 14歳のいたって普通の少女となんら変わりない。

 

シンジがリツコに頼まれて ネルフの新しいカードをレイに届けに行ったとき、シャワーから出てきたレイとシンジは 折り重なるように倒れこむが、この時のレイは 自分が裸だということにも羞恥心はまるでない。

 

裸に羞恥心がないどころか レイの気になるものは ゲンドウのメガネだけで、とても思春期真っ盛りの少女とは思えない。

 

その少女が シンジたちと関わることによって 恥じらいまで見せるようになった。レイが恥じらいを見せて 頬を染めるシーンは TVシリーズならではのシーンだろう。

 

人が変化していくためには 自分以外の誰かと関わることにより生じるものだということが よくわかるシーンでもある。

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シンジ、ゲンドウとの別れ際の勇気

 

ゲンドウ
「3年ぶりだな。2人でここに来るのは」

シンジ
僕は、あの時逃げ出して、その後は来てない。ここに母さんが眠ってるって、ピンと来ないんだ。顔も覚えてないのに

ゲンドウ
「人は思い出を忘れる事で生きていける。だが、決して忘れてはならない事もある」

ゲンドウ
「ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた。私はその確認をするためにここへ来ている」

シンジ
「写真とかないの?」

ゲンドウ
「残ってはいない。この墓もただの飾りだ。遺体はない」

シンジ
「…先生の言ってた通り、全部捨てちゃったんだね」

ゲンドウ
「すべては心の中だ。今はそれでいい」

ゲンドウ
「時間だ。先に帰るぞ」

シンジ
「父さん!」

シンジ
「あの、今日は嬉しかった。父さんと話せて」

ゲンドウ
「そうか…」

 

傷つきたくないがゆえに 人と関わることを避けてきたシンジが ミサトやレイやアスカ、トウジたちと関わることで父親と向き合おうとする。

 

小さいころに母親と死別し 父親にはかまってもらえず ほかの家に預けられてしまう経験は、子どもにとって 捨てられたと思うのはごく自然な成り行きだ。

 

子どもにとって「捨てられた」ということは 全否定を意味する。どうせ自分なんかと思い、自己肯定感が低いのもいたって当たり前で、このような体験をしてもなお 自分が好きだと言える人は まずいないだろうと思う。

 

そんなシンジが父親ゲンドウと会話ををしている。今までなら考えられないことだ。レイにゲンドウのことを聞いても「分からない」と言われたが、父親ゲンドウと話せたことは シンジにとってとてもうれしかったことに違いない。

 

シンジにとって これまでゲンドウと会話といえば、言葉のキャッチボールなんてものはなく、ゲンドウからの一方的なものがほとんどだったが、このシーンではちゃんと会話になっている。

 

「あの、今日は嬉しかった。父さんと話せて」この一言が シンジの気持ちをよく表している。

 

人は自分一人だけだと 変化するのはなかなか難しい。自分以外の人と関わることによって 知らず知らずのうちに何らかの刺激を受け 自分自身でも気づかないうちに 少しづつ変化していく。

 

シンジが自分の事をどれだけ認識してるかと言えば ほとんど認識さえしていなくて無意識だろう。それでも人は 人との関わりの中で少しづつ変化していく。

 

シンジやレイの心の変化は わかりやすく描かれている。

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