転校生のシンジは 学校でも居場所がない

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第参話「鳴らない、電話」より

 

シンジは学校でいつもひとりだ。
この日もひとりで自分の席に座っていると 2週間休んでいたトウジが久しぶりに登校してきた。

 

 

自分の居場所が見出せない

 

ケンスケ
「トウジ」

委員長 
「鈴原」

トウジ 
「なんや、ずいぶん減ったみたいやなぁ」

ケンスケ
「疎開だよ、疎開。みんな転校しちゃったよ。街中であれだけ派手に戦争されちゃあね」

トウジ 
「喜んでるのはお前だけやろなぁ、生のドンパチ見れるよってに」

ケンスケ
「まあね、トウジはどうしてたの?こんなに休んじゃって。この間の騒ぎで巻き沿いでも喰ったの?」

トウジ 
「妹のやつがなぁ」

ケンスケ
「あっ・・・」

トウジ 
「妹のやつが瓦礫の下敷きになってもうて 命は助かったけどずっと入院しとんのや。うちんとこ おとんもおじいも研究所勤めやろ、今職場を離れるわけにいかんしなぁ。
オレがおらんとあいつ病院でひとりになってまうからなぁ。しっかしあのロボットのパイロットはホンマにヘボやなぁ。むちゃくちゃ腹立つわ。見方が暴れてどないするっちゅうんや」

ケンスケ
「それなんだけど、聞いた?転校生の噂」

トウジ 
「転校生?」

ケンスケ
「ほら、アイツ。トウジが休んでいる間に転入してきたヤツなんだけど。あの事件の後にだよ。変だと思わない?」

 

授業中 シンジのパソコンにCALLと入る。

:碇くんが あのロボットのパイロットというのはホント? /

これを見たシンジは驚いて周りを見回す。すると後ろの女の子が手を振って

:ホントなんでしょ?

/

 

シンジは一瞬考えてYESと返す。
その瞬間クラス全員が一斉に「え~っ!!!」
委員長は
「ちょっとみんな、まだ授業中でしょ!席についてください!」
と注意するけど  レイは表情ひとつ変えることなく窓の外を見ている。

 

シンジの周りにはクラスメートが集まりいろいろ聞かれるけど シンジはしどろもどろだ。その様子をケンスケがジィ~っと見てる。


ケンスケは軍事オタクで面白い。聞き耳を立ててすかさず検索する。
トウジも黙ったまま 一番後ろの席から見ているだけだ。

 

授業が終わり休み時間になると シンジはトウジに殴られてしまう。
トウジ 
「すまんな転校生、ワシはお前を殴らないかん 殴っとかな気が済まへんのや」

ケンスケ
「悪いね、この間の騒ぎであいつの妹さんケガしちゃってさ。まっ、そうゆうことだから」

トウジとケンスケが立ち去るとき
シンジ 
「ボクだって乗りたくて乗ってるわけじゃないのに」

トウジはシンジの言葉に振り向き胸ぐらをつかむけど 殴らずにそのまま立ち去る。

倒れたままのシンジのところへレイが来て
レイ  
「非常召集、先 行くから」

 

何事もなかったようにサラッと伝えることだけを伝えて行ってしまう。
第4の使徒シャムシエルだ。
一般住民は避難し、トウジとケンスケも避難する。

 

シンジはまたエヴァに乗る。
エヴァの中で 
「父さんもいないのに なんでまた乗ってんだろう」
とつぶやきながら トウジに殴られたことを思い出す。
「人に殴られてまで・・・」

 

一方避難しているケンスケは 生のドンパチ見たくてうずうずしてる。
委員長にトイレと偽り トウジとともに抜け出すことに成功する。

 

新たな生活を 状況に流されるまま送るシンジに 友人が生まれるはずもなかった。だが エヴァのパイロットである事実は彼を人気者にする。(第弐話の予告ナレーション)

 

授業中にPCでやり取りして クラスのみんなはシンジに興味深々に見えるけど、これはジンジ個人に興味があるというよりは エヴァのパイロットに興味があるってことだ。

 

シンジ自身は状況に流されるままなのに エヴァのパイロットということだけでみんなから注目を浴びる。たかだか14歳でも肩書きに興味がそそられる。


大人になれば余計だ。その人個人を見るときに肩書きから入ったりする。だから余計に肩書きが大事になるのかもしれない。嫌なことも我慢して 頑張って肩書きを手に入れるみたいにね。

 

シンジにしてみれば エヴァになんか乗りたくないんだから みんなに騒がれてもねぇ。自分がイヤだと思ってることをしてるのに みんなからチヤホヤされても素直に喜べるはずはない。

 

それはあくまでもシンジ自身ではなくエヴァのパイロットっだっていう肩書きがあるからだし、極端に言えば エヴァのパイロットならシンジじゃなくてもみんなからチヤホヤされるってことだ。

 

シンジはそんな肩書きなんていらないんだ。
ただ安心して自分がいてもいいんだ、という居場所がほしいだけなんだけどね。

 

シンジの場合 母親のユイに受け入れられている経験があるから余計だ。一度でも受け入れられた経験があると またその安心を求めるようになる。安心を知っているからこそ 安心がないと不安で仕方がなくなる。

 

シンジは母親が亡くなってしまったから もう安心を母親に求めることはできない。だからそれを 母親以外に求める。父親とか他の人にね。


一度でも自分以外の人に受け入れられたことがあると また他人に受け入れてほしいと思うようになる。

 

他人から一度でも受け入れてもらった経験があると、なかなか自分自身で自分を受け入れる、というところには意識が向かない。


人は経験から学ぶから、一度でも自分以外の他の人に受け入れられたことがあると 他人は自分を受け入れてくれるということを 学んでいるってことになる。


 
生まれてから度も受け入れられた経験がなければ 人に対して求めこともなくなる。一度も受け入れられた経験がないと 受け入れてもらえるという前提すらなくなる。受け入れてもらえないことが当たり前になるからだ。

 

この感覚は受け入れてもらった経験がある人には分からないだろう。一度も受け入れてもらったことがないと、他の人には受け入れてもらえないということを学んでしまう。

 

どのみち分離の世界だから、受け入れてもらえる、受け入れてもらえない、このふたつはコインの裏表ってことになる。


生きていくうえで 何者にも受け入れてもらえないということは 生きている意味さえ見出すことが出来ないから 受け入れてもらった経験がない人は それを自分自身に求めるようになる。

私の居場所はどこにあるの? 少女マンガが映す心のかたち (朝日文庫)

 

自分の居場所を見出せないシンジは 流されるままに日々を送る

 

シンジは受け入れられたことがあるから、無意識はまた受け入れてほしいと求める。エヴァのパイロットだから人気者になったとしても シンジ自身は自分がやりたくてやってることじゃないから嬉しくないし、エヴァに乗っていること自体 父親に認めてほしい思いが無意識にある。

 

シンジにとっては 認めてほしいがゆえのエヴァのパイロットなんだから。でも 一番認めてほしいと思っているゲンドウには 認めてもらえるどころか 褒めてももらえない。シンジにとってエヴァのパイロットは 認めてもらうための条件のひとつになっている。

 

例えば親に「あなたはいつも言うことをきくいい子ね」と言われたり、「言うことをきかないのは悪い子よ」なんていつも言われていたらどうなるか。


子どもの無意識に 言うことをきくのはいい子で 言うことをきかないのは悪い子、ということがインプットされる。

 

インプットされてしまえば 悪い子でいいや、と開き直らない限りいい子を演じるようになる。誰だって親には愛されたい。


自分の気持ちを無視するようにいい子を演じていれば そのうちに苦しくて耐えられなくなるか 心の感情を封印してなかったことにするしかなくなる。

 

なかったことにすれば 思考感情の出来上がりになる。苦しくて耐えられなくなった場合は親に反発するだろうが、どのみちありのままの自分でいたら安心できない、ということを学ぶ。どちらがいいとか悪いとかじゃない。これもコインの裏表ってことでしかない。

 

シンジは母親に受け入れられた経験があるから またあのときの安心できる場所を求める。自分が乗りたくもないエヴァに乗っても 他の人から認められ て自分がいてもいいと安心できる場所を求める。

 

でも本当はエヴァになんて乗りたくないんだから 心は納得しない。本当はやりたくないことを頑張ってやっても 褒めてももらえないし認めてももらえない、その上自分の心も納得出来ない。

 

どこにいても安心できるはずもなく 自分の居場所だとは感じられない。どこにも腑に落とせる答えがみつからないシンジは 状況に流されるままに日々を送るしかなかったんだろう。

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