時にプライドは 無意識下に怒りを溜めていく

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第八話「アスカ、来日」より

 

 

大人の都合 しらじらしい会話

 

ミサトたちがアスカを迎えに行くときヘリが下りて来るのを見ながら艦長はつぶやいている。
「はっ、いい気なもんだ。オモチャのソケットを運んできおったぞ、ガキの使いが!」


艦長  
「おやおや ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたがこれはどうやら こちらの勘違いだったようだな」

ミサト 
「ご理解いただけて 幸いですわ、艦長」

艦長  
「いやいや 私の方こそ久しぶりに子ども達のおもりができて幸せだよ」
嫌味たっぷりだ。

ミサト 
「この度は EVA2号機の輸送援助、ありがとうございます。こちらが 非常用電源ソケットの仕様書です」

艦長  
「ハッ、だいたいこの海の上で あの人形を動かす要請なんぞ聞いちゃおらん!」

ミサト 
「万一の事態による備え、と 理解していただけますか?」

艦長  
「その万一に備えて われわれ太平洋艦隊が護衛しておる。いつから国連軍は 宅配やに転職したのかな?」

乗組員 
「某組織が結成された後だと 聞いておりますが」

艦長  
「おもちゃひとつ運ぶのに たいそうな護衛だよ。太平洋艦隊 勢ぞろいだからなぁ」

ミサト 
「EVAの重要度を考えると 足りないくらいですが、では この書類にサインを」

艦長  
「まだだ。EVA2号機および同操縦者はドイツの第3支部より本歓待が 預かっている。キミらの勝手は許さん!」

ミサト 
「では いつ引渡しを?」

乗組員 
「新横須賀に陸揚げしてからになります」

艦長  
「海の上は われわれの管轄だ。黙って従ってもらおう」

ミサト 
「解りました。ただし 有事の際には われわれネルフの識見が最優先であることをお忘れなく!」

 

ここでトウジは かっこえぇ~、と言ってデレデレしてるけど

シンジ 
「まるで リツコさんみたいだ。」
シンジにはミサトの対応が リツコのように見えるんだろう。

加持  
「相変わらず りりしいなぁ。」

その時 加持が来るんだけど ミサトの表情の変化がおもしろい。
アスカは「加持先輩っ!」って テンションあがってるけど。

艦長  
「加持君! キミをブリッジに招待した覚えはないぞ!」

加持  
「それは 失礼。」

ミサとは動揺して 書類落としちゃう。

艦長  
「チッ、子どもが世界を救うというのか」

乗組員 
「時代が変わったのでしょう。議会もあのロボットに 期待していると聞いています」

艦長  
「あんな おもちゃにか? バカどもめ!そんな金があるなら こっちに回せばいいんだ」

 

ミサトと艦長の会話がおもしろい。艦長は艦長たるプライドがあるからなのか・・・ミサトがまだ若くて女性だからってのもあると思うけど ミサトのことを小ばかにしてる。まっ、艦長からしてみれば ミサトは この小娘が!って感じだろうことは 容易に想像できる。

 

大人の男で 社会的地位もある艦長からしてみたら 気にいらないだろうし嫌味のひとつも言いたくなるんだろう。ミサトも分かっていて受け流している。ミサトにしては 感情的にならないで大人の対応をしている。

 

ましてや艦長にとっては エヴァなんぞは子どものおもちゃに見えるわけで それに子どもが乗るなんざ ばかばかしいとさえ思えるんだろう。艦長目線では ばかばかしくて話にもならないという雰囲気だ。

 

艦長くらいの大人になれば 自分の考えもあるだろうし、今まで生きてきた経験もあるから 子どもがロボットのおもちゃに乗って世界を救うなんてことは 想像出来ないだろう。

 

それだけ頭も固くなってる、ってことだろうけど、自分のメンツと立場を守りたいから 文句も言いたくなるってことだろう。自分の地位や体面を考えて 心にもないこと言ったりする。まさに 大人ならではの会話だ。

 

よくよく聞けば かなりしらじらしい・・でも実際の社会でも こんなことはざらにあるんだろう。まっ 本音と建て前ってことだろうが、特に日本は 本音と建て前は別、みたいな文化があるから、ハッキリものを言う外国の人にしてみれば 意味がわからない、ってことにもなる。

 

でもそんな大人の会話を尻目にして 子どもたちはおもしろい。シンジはミサトを見て、まるで リツコさんみたいだ、って言っている。シンジにしてみれば リツコは仕事一筋で 仕事に関して妥協しない強い人、みたいなイメージなんだろう。

 

一方 ミサトに関しては 一緒に住んでるわけだし、ミサトのだらしないところとか いっぱい見ている。ミサトが リツコみたいに対応してるところは あまり見たことないわけだから。シンジが驚くのも 無理はないのかもしれない。

 

人にはいろいろな面があるから ある一面しか見たことがなければ 別の面を見たときの驚きは大きい。ましてシンジからみたミサトは 家では本当にグダグダだから、シンジにとっては新鮮でもあるかもしれない。

 

そして 加持もおもしろい。あの雰囲気のなか「相変わらず凛々しいなぁ」と言って さらっと入ってくる。艦長に「加持君! キミをブリッジに招待した覚えはないぞ!」と言われても「それは 失礼」と 淡々としたもんだ。そりゃ ミサトは動揺するけどね。艦長タイプの大人は たくさんいると思うけど、加持タイプの大人は 少ないだろう。

 

ミサトも加持も キライになって別れたわけじゃないからお互いに気にもなるだろうし、どこかで意識し合ってるのが面白い。加持は明らかに ミサトのことがまだ好きなのは見え見えな感じだし。

 

ミサトにしても加持が現れたとたん 焦って書類を落としちゃうし、エヴァで唯一の 大人のロマンスと言っていいんじゃない。お互いに好きなのに束縛し合っていないって なかなか珍しいと思うけど。

 

加持は ふざけているんだか マジメなんだか、よく解らない感じだけどそれが 加持の性格なのか、作戦なのか、それともどっちもなのか・・・どちらにしても 個人的には好きなキャラだ。

 

なんだか掴み所が無い感じなのに 心の奥に秘めた信念がある感じがいい。ブレない感じって言えば分かりやすいかな。加持自身が求めるもののために ブレることがない感じだ。だから2重スパイやってんだろうけど。

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる

 

自分を守るためのプライドは 執着すればするほど自分自身の首を絞めてしまう

 

それにしても 艦長はなにげだ。ご都合主義の大人の見本みたいだ。それが いいとか悪いとかは思わないけど 人が社会で生きて行く、ということは 生活を守るためだったり、自分の立場を守るためだったり、人それぞれなんだろう。これも処世術って言っちゃえばそうなるんだろうけど。

 

艦長のように 面目を保つためのプライドを持っている人は多いと思うけど、他人からしてみれば 艦長自身が思うほどそんなことは気にしていないことが多い。

 

ミサトにしてみても 艦長にプライドがあろうがなかろうが 自分の仕事が出来ればいいわけで、艦長自身がどう思っていようが 関係ないところにいるのが事実だ。

 

だが艦長にしてみれば「おやおや ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていた」と、嫌みも言いたくなるほど 気分は悪いし プライドも傷つく案件だろう。

 

嫌みのひとつじゃ収まらないから「いやいや 私の方こそ久しぶりに子ども達のおもりができて幸せだよ」とも言っている。内心は イライラして怒りをためている。

 

このくらいですめばいいけど、あまりにもプライドに執着すれば イライラと怒りはどんどん溜まっていく。たまった怒りを誰かにぶつけて ストレス発散でもできれば 少しは楽になると思うど、自分の立場上 怒りを誰にもぶつけられなければ 自分自身の中に溜めるしかなくなる。

 

怒りを誰にもぶつけなくても イライラは漏れてしまうから 周りから見れば一目瞭然なんだけど、本人が自覚して認識できていなければ どうすることも出来ない。

 

まわりはそんなことどうでもいいと思っていても、本人が執着すればするほど 自分で自分の首を絞めてしまうことになる。自分自身が自分の事を理解できていないと 無意識のうちに自分自身が自分を苦しめる状況に陥ってしまう。

 

これが「ヒト」という由縁なのかもしれないが、精神的に楽に生きるためには、自分自身を知ることは必須だ。

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