シンジの心に響くものは

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第四話「雨、逃げ出した後」より

 

シンジはネルフの身分証明書を抹消される。

 

 

ついにシンジはネルフを出ていく

 

ミサトに一言別れを告げたかったが ネルフ側から
「君はすでにネルフの人間ではない、どのようなことも教えられない」
と言われてしまう。

ミサトに別れを告げられないまま 駅に着くとそこにはトウジとケンスケがいた。

トウジ 
「碇、忘れ物や」といってシンジのバックを投げてよこす。
シンジはトウジたちと話す時間をもらえる。

シンジ 
「あの・・・ありがとう」

ケンスケ

「トウジ!しゃべれよ」

トウジ 
「碇、2発もどついたりして悪かった。わしのこともどついてくれ」

シンジ 
「そんなこと出来ないよ」

トウジ 
「頼む、せやないとわしの気が済まん」

ケンスケ
「こういう恥ずかしいヤツなんだよ、それで丸く収まるなら殴ったら」

シンジ 
「でも・・・」

トウジ 
「はよう!時間ないんやろ!」

シンジ 
「じゃ 1発だけ」

トウジ 
「よしっ!こんかい!」

殴ろうとするシンジにたいして

トウジ 
「待ったあ!手加減なしや」
シンジに殴られて トウジとケンスケは笑うんだ。

シンジ 
「どうしてここが・・・」

ケンスケ
「カンってやつだよ、ここんとこ何十人って同級生を見送ってきたんだ」

トウジ 
「碇がおらんやったら いずれわしらもこの街から出て行かんならんようなるやろ、せやけどわしら何も言われへん。エヴァの中で苦しんでる碇の姿見てるからなぁ。碇のこと ごちゃごちゃぬかすヤツがおっってみぃ ワシがバシッとかましたる」

このトウジの言葉を聞いているシンジは体が振るえてる。心に来るものがあったんだろう。

トウジ 
「そない辛気臭い顔すんなや」

ケンスケ
「元気でな」

トウジ 
「頑張れや」

シンジ 
「あの・・」

シンジが何か言おうとしたとき 時間だ、と静止されてしまう。シンジは物足りなさそうな顔をするけど すぐにあきらめたように下を向いてしまう。両脇を抱えられ階段を上がる途中でシンジはいきなり振り返り

シンジ 
「殴られなきゃならないのは僕だ、僕は卑怯で臆病でずるくて弱虫で・・・」

言葉の途中で「これ以上手を焼かせるな」と連れて行かれてしまう。
トウジとケンスケはそんなシンジを見て呆然としたままだ。足音だけが虚しく響く。

 

ネルフでは
リツコ 
「行っちゃったわね、これでよかったの?」

ミサト 
「ヤマアラシのジレンマか、身を寄せ合って相手を傷つける。こうゆうことか・・・
あの子 ああゆう言い方でしか自分の気持ちを伝えられないんだわ」

 

シンジは駅で下を向いたまま電車を待つ。
電車のドアが開いた瞬間 シンジはミサトの「頑張ってね」と言う声が聞こえてハッとして顔を上げる。発射のベルは容赦なくなり続ける。ドアは閉まり電車は走り出す。

 

その時 ミサトが来る。
走り出した電車を見て シンジはもう行ってしまったと思うミサト。走去る電車をただ見送るしかない。呆然として下を向き車に寄りかかる。駅にはまだシンジが下を向いて立っていることに気付かない。


ため息をつきながら振り返ったとき そこにシンジを見つけるんだ。
シンジもミサトに気付いてハッとする。ふたりの間に沈黙の時間が流れる。
長い沈黙の後

シンジ 
「ただいま」

ミサト 
「おかえりなさい」
ふたりのホッとした表情でこの回は終わる。

 

次回 第伍話「レイ、心のむこうに」
他人との接点を最小限にとどめ生きていく綾波レイ。彼女が心を開くのは碇指令だけだった。自分より父に近い少女にシンジは戸惑う。(第伍話の予告ナレーション)

山アラシのジレンマ (ダイヤモンド現代選書)

 

トウジの言葉がシンジに響く

 

ついにシンジは ネルフから出て行く。思いもかけず駅には トウジとケンスケがいて シンジを殴ったことを誤りたいと思っていたトウジは 一発殴り返してくれ、と言う。シンジはトウジを殴るんだけど、その後のトウジのセリフがいい。

 

「ワシら なにも言われへん。エヴァの中で苦しんでる 碇の姿見てるからなぁ。碇のこと ゴチャゴチャぬかすヤツがおったら ワシがバシッとかましたる」

 

おまえがいなくなったら 誰がエヴァにのるんだよ、誰が敵と戦うんだよ、おまえは 残って戦うべきなんじゃないか、とか こういうこと いっさい言わない。

 

これ シンジをありのまま受け入れているってこと。弱くてもいい、いくじがなくてもいい、ツライんだったら逃げていいよ。どんなシンジであろうと オレは友達だというメッセージで、シンジに対して 条件をつけていない。

 

例をあげてみれば
親がコドモによく言うこと。
「ちゃんとお勉強しないと 立派な大人になれませんよ。」
これ、裏をかえせば 勉強しないとダメな大人になりますよ。と言ってるのと同じではないか。

 

ある意味 脅迫に近いんじゃないの、と 思うわけだ。
「○○ちゃんは ママの言うことちゃんと聞いてイイコね。」
こう言われちゃねぇ。

 

コドモにとっては イイコにしないとママに嫌われちゃうし、受け入れてもらえないんじゃないか、と思ったら恐怖を感じてしまうわけだから ママの言うことを聞くようになる。コドモが小さければ小さいほど よけいにそう思う。コドモにとっては 死活問題だ。

 

”ママの言うことをちゃんと聞く”って 条件をクリアしないと、ママには愛してもらえない。受け入れてもらないって 構図が出来上がる。愛は 条件付きだ。(これはあくまでたとえで、親がみんなそうだと言っているわけではない。)

 

シンジの場合、トウジの言葉で ココロの中の何かにふれる。シンジのココロの中で 一気にいろんな感情があふれ出るんだと思う。

身になる言葉 気になる言葉 薬になる言葉 毒になる言葉

 

受け入れられたという安心感は ネガティブなことも受け入れる

 

その後のシンジのセリフ
「殴られなきゃならないのは ボクだ。ボクは卑怯で臆病で・・・小さくて 弱虫で・・・・・」      
自分のこと 見てるし 知っている。

 

自分のネガティブな部分 きちんと見てる。
逃げようとしていたシンジが ここでは逃げないで 自分と向かい合ってる。

 

自分のネガティブなところを 受け入れるのって難しい。見ないって決めれば 見ないですむ。そして 見ない為の理由付けはいくらでも出来る。

 

一般的には シンジはダメダメと見られていると思うけど、裏を返せば自分のココロに正直ってことになる。自分のココロが感じたことから逃げないで 自分の感じたココロを シンジは受け止めてるってことだ。

 

この後 ホームに電車が入ってきて 発車のベルが鳴るんだけどその時 シンジのココロの中で ミサトの声が聞こえる。「がんばってネ」それを聞いて ハッ、としたシンジは 電車に乗ることが出来なかった。

 

ただそこに 下をむいたまま立ち尽くす。シンジにはきっと ミサトがシンジを思いやってることが ちゃ~んと伝わっていたんだ。

 

一方ミサトは ネルフでもんもんとしてるんだけど、さすがミサト、気付いてしまう。
「あの子 ああゆう言い方でしか 自分を伝えられないんだわ」


ミサトもシンジをよく見てる。そりゃあ 急いで駅に向かうよね。でも ちょうど電車が発車したところで うなだれて車に寄りかかる。

 

シンジもミサトも お互いに気がつかない。・・・・・長い沈黙。この時も お互いのココロの中で いろんなことがおきているんだろう。でも ミサトが車に乗ろうとしてふり返った時 ハッ、とするんだ。シンジがそこにいることに。

 

2人の目が合う。
そしてまた・・・・・長い沈黙
シンジ  
「ただいま」

ミサト  
「おかえりなさい。」

お互い 一言づつしか言わないんだけど、なんかいい。
受け入れあっている。なんか ココロが暖かくなる。

 

人は 人に受け入れてもらえることで安心できる。
人は 人にわかってもらえることで安心できる。
そうじゃないと きっと不安になるんだろう。

 

シンジも トウジやケンスケやミサトに 受け入れてもらえた、わかってもらえた、と
ココロのどこか・・・で 感じていたんだと思う。意識にあがらなくても ココロで感じているんだ。ココロで感じているからこそ 電車に乗らなかったんだ。

 

そして トウジのセリフには シンジに対する共感がある。
トウジは シンジに ”おまえの気持ちは わかるよってことを 言っいてる。これ、共感してるんだ。

 

やっぱ エヴァの心理描写は 繊細で深い。
たかがアニメ、されどアニメ、
エヴァの人気は ヒトの無意識に 訴えかけるものがあるのかもしれない。

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