人と繋がりたい気持ちと、ひとりで頑張る自分でいいという気持ちの間で、アスカの心はせめぎ合う


エヴァンゲリヲン新劇場版:破より


3号機起動実験の前、アスカがミサトに守秘回線で電話する。

 

 

アスカの無意識は変化を恐れ、変化しないことへの正当な理由を探す

 

ミサト 
「守秘回線・・・アスカから・・・」
ミサトにしてみれば、アスカから電話がかかってくるなんて驚きだ。

ミサト 
「どうしたの?アスカ、本番前に」

アスカ 
「なんだかミサトと2人で話がしたくてさ」

ミサト 
「そう、今日のこと改めてお礼を言うわ。ありがとう」

アスカ 
「私はいいわ。愚民を助けるのは エリートの義務ってだけよ。もともとみんなで食事ってのも苦手だし、他人と合わせて楽しいふりをするのも疲れるし、他人の幸せを見るのはイヤだし、私はエヴァに乗れればよかったんだし、もともとひとりが好きなんだし、慣れあいの友達はいらなかったし、私をちゃんと見てくれる人ははじめからいないし、成績のトップスコアさえあればネルフでひとりでも食べていけるしね。でも最近他人といるのもいいな、と思うこともあったんだ。私には合わないけど・・・」

ミサト 
「そんなことないわよ、アスカはやさしいから」

アスカ 
「こんな話は ミサトがはじめて。なんだか楽になったわ。誰かと話すって心地いいのね、知らなかった」

ミサト 
「この世界は、あなたの知らないおもしろいことで満ち満ちているわよ。楽しみなさい」

アスカ 
「あー、そうね。ありがとう、ミサト」

この後3号機に乗って 
「そうか・・・私、笑えるんだ」ってつぶやく。

 

どうした!アスカ、いつもひとりが当たり前だったアスカが人を求めてる。
ちょっと心開いてミサトと話すなんて、今までとは明らかに違う。

 

[もともとみんなで食事ってのも苦手だし]
いつもひとりだったから、みんなで食事する経験もない。

[他人と合わせて楽しいふりをするのも疲れるし]
アスカはいつもひとりだったから、人に合わせるの苦手だ。

[他人の幸せを見るのはイヤだし]
それは当然だろう、自分は幸せじゃなかったから。

[私はエヴァに乗れればよかったんだし]
エヴァに乗るのはアスカにとって存在意義だ。

[もともとひとりが好きなんだし]
だってひとりが好きだと思わなきゃ、やってこれなかった。

[慣れあいの友達はいらなかったし]
気を使ったりするのはキライだ。

[私をちゃんと見てくれる人は、はじめからいないし]
一番身近な親にちゃんと見てもらえなかったら、他人にも期待すらしなくなる。

[成績のトップスコアさえあれば、ネルフでひとりでも食べていけるしね]
ここ、アスカの大事な存在意義だ。

[でも最近、他人といるのもいいな、と思うこともあったんだ]
人に受け入れてもらえる安心感、そんな経験は始めてだったろう。

[私には合わないけど・・・]
でもここですかさず、私には合わないと言ってる。

 

本当は、他人といるのもいいなと思っても素直になれない。

 

でもミサトには、電話していろいろ話してちょっと素直になれた。

 

今までひとりで耐えてきてるから、他人といるのもいいなと思っても、すぐにじゃあそうしようとはならない。

 

もし受け入れてもらえなかったら傷つくから、それは怖いしそんなダメージはイヤだと思うのは当たり前だ。

 

人間の存在意義 神の存在、死後存続との関わりにおいて

 

アスカの存在意義のその下には、無意識の承認欲求がある

 

アスカはひとりで努力してきて、そのおかげで認められていると思っているし、無意識の承認欲求も満たされている。

 

自分自身の頑張りで今があるのに、他人といるのもいいなと思ったからといって、今までの自分を変えるのは、その先に何が起こるかわからないという恐怖がある。

 

今まではつらくてもひとりで耐えてきた、それはそれなりに慣れ親しんだ世界だ。

 

自分が今まで慣れ親しんだ世界は、つらくても安心感がある。自分が傷つき苦しむかもしれないと思ったら、その安心感から離れるのは恐怖でしかない。

 

アスカは育った環境からトラウマがあるし、ひとりぼっちになる体験は2度としたくないと思っているだろう。

 

[私をちゃんと見てくれる人は、はじめからいないし]
という言葉からもうかがえる。

 

人はだれかに受け入れてもらいたいと思うのが常だ。誰にも必要とされなければ、生きる意味も分からないし寂しい。

 

寂しいから誰かと繋がっていたい。その時に捨てられりたり否定されたりすれば傷つく。

 

意識では平気なフリをしても、心の奥では求めている。

 

求めていても傷つきたくはないから、頑張って努力して成果を出すことで認めてもらおうとする。

 

どんな自分も自分自身を受け入れない限り、無意識の承認欲求はなくならない。

 

「承認」の哲学――他者に認められるとはどういうことか――