ミサトの求める心が恐れに負ける瞬間

 

エヴァンゲリオン TVシリーズ

第拾伍話「 嘘と沈黙」より

EPISODE15:Those women longed for the touch of others' lips, and thus invited their kisses.

 
友達の結婚式にリウコ、加持とともに出席するミサト。
その帰り道

 

 

「自分を知っている」ということ

 

加持
「いい年して、戻すなよ」

ミサト
「悪かったわね、いい年で…」

加持
「年はお互い様か…」

ミサト
「そーよー…」

加持
「葛城がヒール履いてんだからなぁ。時の流れを感じるよ」

ミサト
「無精ひげ、剃んなさいよ」

加持
「へいへい」

ミサト
「後歩く。ありがと」

加持
「ん」

この時 加持に抱きすくめられキスを交わす。
ミサトは 加持の背中に手を回そうとして 一瞬ためらったように手を止めるが、その手は加持の背中に回されることなく あきらめたようにそっと引かれる。

ミサト
「加持君、私変わったかな?」

加持
「きれいになった」

ミサト
「ごめんね、あの時、一方的に別れ話して。他に好きな人ができたって言ったのは、あれ、嘘。ばれてた?」

加持
「…」

ミサト
「気付いたのよ、加持君が、私の父に似てるって」

ミサト
「自分が、男に、父親の姿を求めてたって、それに気付いたとき、恐かった。どうしょもなく、恐かった」

ミサト
「加持君と一緒にいる事も、自分が女だと言う事も、何もかもが恐かったわ」

ミサト
「父を憎んでいた私が、父によく似た人を好きになる。すべてを吹っ切るつもりでNERVを選んだけれど、でも、それも父のいた組織」

ミサト
「結局、使徒に復讐する事でみんな誤魔化してきたんだわ」

加持
「葛城が自分で選んだ事だ。俺に謝る事はないよ」

ミサト
「違うのよ、選んだわけじゃないの。ただ、逃げてただけ。父親と言う呪縛から逃げ出しただけ!」

ミサト
「シンジ君と同じだわ!臆病者なのよ…ごめんね、ほんと。酒の勢いでいまさらこんな話」

加持
「もういい」

ミサト
「子供なのね。シンジ君に、何も言う資格ない」

加持
「もういい!」

ミサト
「その上こうして都合のいいときだけ男にすがろうとする、ずるい女なのよ!」

ミサト
「あの時だって、加持君を利用してただけかもしれない!嫌になるわ!」

加持
「もういい!やめろ!」

ミサト
「自分に、絶望するわよ!」

加持
「…」

ミサト
「…」

 

次回第拾六話「死に至る病」
動揺したシンジはディラックの海に取り込まれてしまう
残されたわずかな時間が彼に絶望を教える
(次回予告ナレーション)

 

ミサトの言葉が物語るように ミサトは自分自身のことをよくわかっている。

 

加持に対しては正直で 自分の気持ちを包み隠さず吐露している。

 

「父を憎んでいた私が、父によく似た人を好きになる」

加持も 自分の興味あることにまっすぐで 命の危険も顧みず二重スパイのようなことをしている。

 

自分の興味のあることにまっすぐで 家族は二の次だった父親。
父親本人としては 家族を二の次にしている認識はなかったかもしれないが、結果的には自分のやりたいことが一番で、家族にとっては「父親」や「夫」という存在からは程遠かった。

 

「妻」が求めていた「夫」の姿はそこにはなく、ミサトの母親は泣いてばかりいた。
「子ども」が求めていた「父親」もそこにはなく、ミサトは寂しい思いをしていた。
そしてミサトは 母親を泣かせる父親を怨むようにさえなる。

 

そんな父親に助けられたジレンマ。

使徒を倒しても その組織さえ父親のいた組織。

使徒を倒すことで 父親への復讐が出来ると思っていたことさえ 自分自身への誤魔化しでしかなかったこと。

自分が「女」であるがゆえに「男」である加持を求めていること。

酒の力を借りて「男」にすがる「女」である自分。

 

ミサトは 自分自身がシンジと何ら変わりないことを知っている。
自分の嫌なところは できれば見たくない部分だが、そこに気づいて自分自身を理解している。

 


それが いいとか悪いとかではなく、ただ自分を見て認識して「自分を知っている」ということ。

ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー

 

その恐れは 求める心さえ押しのける

 

酒の力を借りて加持を求めるミサト。
求めるなら 最後まで求めてしまえば その一瞬は楽になると思えるが、その奥にある恐れは消えることがない。

 

怖いのだ。
求めたところで 加持は二重スパイをやめないだろうし、命の危険さえあるかもしれない。 父親の時とまた同じように 寂しい思いや 独りぼっちになるかもしれないと思うと怖くてたまらなくなる。

 

求めてしまいたい自分自身との間で葛藤する。
加持に抱きすくめられキスを交わしたとき、ミサトの手は躊躇しながら加持の背中に手を回そうとする。
加持の背中に手を回したとき 求める気持ちが勝ちそうになる。

 

だがこの後ふとためらったように ミサトの両手は一瞬止まり 加持の背中に回されることなく 静かに加持の背中から離れる。

 

求める心が「恐れ」に負ける瞬間だ。 

 

「恐れ」は強力だ。

シンジは傷つくことを恐れている。ミサトと同じだ。

アスカも 誰にも認めてもらえないことを恐れている。

シンジは その恐れから自分が傷つかないように距離をとる。

アスカは その恐れから必死に頑張って認めてもらおうとする。

 

ミサトは そんな自分自身に気づいてしまった。

シンジは そんな恐れをインナーチャイルドが知っている。

アスカは 恐れがあることさえ気づいていないだろう。

 

恐れなんかいらないと思っても 願ったところでなくなるわけではないし、少しでも恐れを軽減しようと思ったら そこに向き合って感じ切るしか方法はないだろう。心は感じ切ってお腹いっぱいになり 満足しない限り癒されることはないのだから。

 

何が正解で 何が間違っているということもない。
どこで気づくか また気づかないか、それさえ分からない心の複雑さなのか、それとも運命なのか・・・・・

 

将来に対しての何気ない不安や 病気になるかもしれないという恐れなら、お金を払って保険という「安心」が買えるが、それはあくまでも物理的な「安心」でしかない。

 

アニメを見ていれば ミサトやシンジのセリフは さらさらと通り過ぎてしまいがちだが、立ち止まってかみしめてみると なかなか奥が深いのは エヴァンゲリオンならではだろう。

心がつながるのが怖い 愛と自己防衛